7つの亡霊(ゴースト)

わたしの名前は、井津本 端(いつも ただし)。東京都中野区と杉並区のだいたいまん中に住んでいる。職業は探偵。とは言っても、けい察にもみとめられるようなすぐれた探偵ではなく、毎日、皿洗いをして生活費をかせぐ皿洗い探偵だ。
今回は、そんなわたしが調査をした、かなりきみょうで、むずかしい事けんをご紹介しよう。わたしは、この事けんを通じて、時間のたいせつさをあらためて心にきざみつけた。

事けんは10月7日の早朝におきた。きのうの夜からふり続けた雨は、朝になってもやみそうになかった。事む所のソファでねていたわたしは、ドアをはげしくたたく音で起こされた。
「井津本さん、また出たんだ!」
ねぼけまなこでドアを開けると、そこには中野区商店街連合会の会長さんが、かたで息をしながら立っていた。
「会長さん、おはようございます。また出たって、なにが出たんです?」
「オバケだよ、オバケ。しかも、きのうは7つも出たんだ!」
「はあ……。ですが、わたしは探偵です。オバケをやっつけるせん門家ではないんですよ」
「井津本さん。あんた、オバケが本当にいると思っているのかね?」
「いたほうが楽しいと思います」
「そういう問題じゃあない。わたしは、ここ数日、商店街に出るオバケは、だれかのイタズラじゃないかと考えているんだ」
「なるほど」
「だから、あんたに相談しているんだよ。とにかく早いところ、事けんをかい決してくれ。わかったね!」
会長さんは、そう言って事む所から出ていった。ひとつも手がかりをもっていないわたしは、調査を始める気にはなれなかった。だが、お世話になっている会長さんのたのみということもあって、10時すぎに中野の街へと足を運んだ。

***

 9時間後。わたしは、事む所に帰ってきた。オバケの正体は、わからないままだった。きょう力してくれた、ゆうしゅうな探偵団のみんなのおかげで、いくつかの手がかりは見つかった。しかし、より道をしすぎたのか、ひとつの手がかりにこだわりすぎたのか、とにかく時間がなくなってしまった。

そんなわたしの元に1通のメールが送られてきた。差出人は亡霊(ゴースト)。その名前が気にはなったものの、今日1日、中野の街を歩き続けたわたしは、へとへとにつかれていた。自分の調査のどこに問題があったのかも、頭にうかんでこない。とにかく明日だ。今日のところは、わからなくても、良しとしよう。

なくなったもの

 

中野区のいきもの

わたしの名前は、井津本 端(いつも ただし)。東京都中野区と杉並区のだいたいまん中に住んでいる。職業は探偵。とは言っても、1日中、ひじかけイスにすわって考えごとをしているような探偵ではなく、毎日、皿洗いをして生活費をかせぐ皿洗い探偵だ。
皿洗いが生活の中心なので、わりと変化の少ない毎日をすごしているわたしだが、これからご紹介する事けんを通じて、自分がいかにまわりを観察していなかったかを思い知った。

それは8月始めのことだった。いつもは会社員ばかりのJR中野駅前は、夏休みどまんなかの子供たちであふれていた。わたしは事む所のまどから外をながめつつ、なぜ中央線があんなにまっすぐなのかについて考えていた。
「井津本さん、教えてほしいことがあるんです」
そう言いながら入ってきたのは、事む所の近くに住んでいる中学生のナカタくんだった。
「中野区にいた、めずらしい動物を調べているんですけど、これがわからなくて……」
ナカタくんは「わかります?」と言って、メモをわたしの方へとさし出した。
「2が4つ? なんだい、これは?」
そのメモには、数字の2が4つ、それぞれ、べつの色で書かれていた。
「どうやら、この数字が、そのめずらしい動物を指しているようなんです」
わたしは、もういちどメモを見た。さっぱりわからない。
「ゾウ」わたしは、自分の野生のカンにかけてみることにした。
「どうしてですか?」
「なんとなく……」ナカタくんが、がっかりした顔を見せる。
「中野坂上には、きさやと呼ばれる江戸時代のゾウ小屋のあとがあります。でも数字の数とあってませんし、ちがうと思います」
「じゃあ、さる」わたしは、自分の野生のカンを信じていた。
「どうしてですか?」
「だから、なんとなく……」ナカタくんが、あきらかにがっかりした顔を見せる。
「上高田には、さる寺とよばれるお寺があります。とは言え、絶対にちがうと思います」
そう言ってから、ナカタくんは、なにかを思いついたように、ひとりで考えはじめた。
「たしか、上高田のさる寺の近くには、しし寺もあったよな」
相談をうけたものの、まったく役に立ちそうもないわたしは、メモに文字を書きこむナカタくんの手元をそっとのぞきこんでみた。

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「こんな動物、本当に中野区にいたのかなあ。調べなおさなくちゃ」
5分後。ナカタくんは、探していた答えを見つけたようだった。「おじゃましました」と言い残して、足早に事む所から出ていく。
わけもわからないまま、事む所にひとり残されたわたしだったが、やがて自然に笑顔が浮かんできた。なにはともあれ、わたしと話をしたことで、ナカタくんは答えを見つけたのだ。よくわからなくても、良しとしよう。

いじわるなサンタクロース

わたしの名前は、井津本 端(いつも ただし)。東京都中野区と杉並区のだいたいまん中に住んでいる。職業は探偵。とは言っても、いつも殺人事件にまきこまれる系の探偵ではなく、毎日、皿洗いをして生活費をかせぐ皿洗い探偵だ。
今回、しょうかいする事けんは、そんなわたしの10年におよぶ探偵生活の中でも、いちばん幸せな結末をむかえた事けんだ。

それはきょ年のクリスマスイブのことだった。イルミネーションにかざられた街には、ジングルベルが流れつづけていた。わたしは中野ブロードウェイを歩きながら、なぜ千光前通りに守護神がいるのかについて考えていた。そして、あるおもちゃ屋さんの前を通りかかったとき、紙キレをにぎりしめて立っている小学校2年生ぐらいの女の子を見かけた。
「どうかしたのかい?」
いきなり話しかけられた女の子は、わたしのことを少しけいかいしているようだった。
(ダメだ。ここは、なにかおもしろいことを言って、なごませなければ!)
わたしは、はい色の頭脳をフル回転させて、色々なダジャレを考えてみた。
「12月はサンタクロースが、いちばん苦労する季せつなんだ。なぜかって? サンタ、苦労する……サンタ、クロースル……」
「最近、サンタクロースがこまっていることがある。トナカイとそりが合わない……ソリが合わない……」
女の子は、くすりとも笑わずに、わたしを見ていたが、やがてなにか思うことがあったのか、おずおずとわたしに話しかけてきた。
「……井津本さん……だよね。へんなダジャレがとくいな……」
女の子は、わたしが軽くきずついたことなど、おかまいなしに話をつづける。
「あのね。あたしの家のサンタさん、いじわるなの。このクイズがとけなかったら、プレゼントくれないんだって……」
話がおわると女の子は、泣きそうな顔になった。それはこまる。わたしは女の子から紙キレをあずかった。計算しきのように見えるが、数字のかわりにひらがなが書かれている。
「なんだこりゃ?」なんとかして、女の子を助けてあげようと思ったわたしだったが、このクイズはどうにもとけそうになかった。
「井津本さん、わかった?」女の子は、泣きだしそうな顔で、わたしを見つめる。
「えーと、その……」追いこまれたわたしを救ったのは、女の子の母親が送ってきたメールだった。女の子は、けいたい電話を取り出すと、なれた手つきで母親に返信を打ちはじめた。わたしは、女の子がメールを打っているあいだに、なんとかしてクイズをとこうと思ったが、ひらめきの神様がやってくるようすはなかった。

3分後。メールを打ち終えた女の子は、なにか答えを見つけたようだった。わたしに向かって「ありがとうございました!」とおれいを言うと、満面の笑みを浮かべてさっていく。
わけもわからないまま、ひとり残されたわたしだったが、やがて自然に笑顔が浮かんできた。なにはともあれ、わたしと話をしたことで、女の子のなやみは解決したのだ。よくわからなくても、良しとしよう。

※2012/10/06 16:35追記
女の子からもらったクイズがまちがっていたようだ。
たった10かげつ前のことを覚えきれていなかったことに、衝げきを感じえない。
おしいれからあの時の紙キレをひっぱり出してきた。あい変わらずよくわからないが、
これで間ちがいないはずだ。ご指摘いただき、ありがとう。

アラームの数5つ

わたしの名前は、井津本 端(いつも ただし)。
東京都中野区と杉並区のだいたいまん中に住んでいる。職業は探偵。とは言ってもテレビに出るような優しゅうな探偵ではなく、毎日、皿洗いをして生活費をかせぐ皿洗い探偵だ。
そんな、わたしのところには少し変わった事けんが持ちこまれることが多い。今回、ペンを取ったこの事けんも、そのような変わった事けんのひとつだ。

それは9月終わりの夕方のことだった。大がたの台風が近づき、街には強い風がふきあれていた。わたしは事む所のつくえにつっぷして、江古田の正しい読み方について考えていた。
「井津本さん、大変だ!」
事む所のドアをいきおいよく開けて入ってきたのは、サンケイ工業の山下 啓(やました けい)社長だった。
「ここ数日、うちの会社に、こんなものがとどけられるんだ」
山下社長はスーツのポケットからふくれたふうとうを取り出すと、テーブルの上に持ってきて、ひと目で安物とわかるうで時計をふり落とした。
「うで時計だ」社長は続けて言った。
「アラームが17時にセットされていて、かならず5回、大きな音をたてる。まったくもって、めいわくな話だ」
「それだけですか? ふうとうにおかしな点はありませんか?」
「消印はない。中には、こんなメモが入っていたが、オレにはまったく意味がわからない」
わたしは山下社長からメモをあずかった。暗号めいた文字の下に「カエレ」と書かれている。なにかのいやがらせだろうか。そして、暗号の最後には、K.K.K.のサインがあった。

「K.K.K.だって?!」
わたしが声をあげたと同時に、テーブルの上に置かれていたうで時計が、きっちり5回、アラームを鳴らした。
「山下社長、よく聞いてください。これは最近見たテレビ番組でもあった話です。昔から、あるひみつ結社は、メロンやオレンジの種5つをけい告として相手に送りつけていました。そして社長のところに送りつけられてきた、この時計も同じように5回鳴るんです。なによりもK.K.K.というのが、そのひみつ結社の名前なんですよ!」
「はぁ?」社長はわけがわからないといった顔で、わたしを見つめる。
「行動しなければ、やられるだけです。少しでも早く、この暗号を解かなければ。まよっている時間はないっ!」
皿洗い探偵の前に、とつぜん、ふってわいた大事けん。だが、山下社長はかえって冷静になったようだった。
「井津本さん、うちの会社は中野区で50年続いた町工場ですぜ。ひみつ結社がどこに出てくるって言うんですかい」
「ですが!」
「ですよ」
なおも食い下がろうとするわたしをとどめ、山下社長は暗号の書かれた紙を手に取った。
「この暗号を解けば、なにか意味がわかるんでしょうなあ」

よでっくこりまてばづみっこらかちすいいいしぐさげぬなかもつきいえなのよ

10分後。山下社長は「わかった!」とひと声あげると、満面の笑みを浮かべて会社に帰っていった。
わけもわからぬまま、事む所にひとり残されたわたしだったが、やがて自然に笑顔が浮かんできた。なにはともあれ、わたしと話をしたことで、この変わった事けんは解決したのだ。よくわからなくても、良しとしよう。

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